どですかでん('70)

椿三十郎」や「生きる」などといった、いわゆる名作とはまったく違うつくりのサイケでモンドな黒沢映画。黒沢明の初のカラー映画なのだが、画面には強烈な色彩が施されており、色彩を実験的に使っているところが、この映画の大きな見所である。少女が内職で作っている造花の人工的な色合いもそうだし、最初と最後にあらわれる六ちゃん(電車少年)が描いた鮮やかな電車の絵がそうである。田中邦衛と井川比佐志の夫婦のエピソードは、カラー映画じゃないと理解しにくいユーモラスなものであるし。
 昭和40年前後(?)のスラム街に生きる市井の人々が主人公だが、ロバート・アルトマン映画のような群像劇で、ストーリーらしいストーリーはない。だから物語が収束していくことはないのだ。どうしようもなく悲惨な生活をしている人物も描かれているのだけど、彼らの生き方を映画は温かい眼差しで描いている。特に物語の狂言回し役の六ちゃん(電車少年)が「どですかでんどですかでん」と言いながら登場することによって、ホッと一息できる。
★★★★

どですかでん [DVD]

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