野のユリ('63)

 この映画を初めて見たのはたぶん中学生の頃。それから30年以上経っているのだけど、シドニー・ポワチエとシスターたちが歌う「エーメン、エーメン」というメロディは耳から離れていない。それくらいこの歌の力は大きいものなのだ。

舞台はメキシコに隣接するアリゾナ州。気ままな旅をしていたスミス(シドニー・ポワチエ)は旅の途中で出会った尼僧たちに一杯の水を求めた。たったそれだけのはずだった。尼僧たちは東欧からベルリンの壁を命懸けで越えて来て、この荒れた地に教会を建てようとしていたのだ。そして彼こそ神が遣わした使徒だと言う。懸命に否定するスミスだったが、強引な院長に押し切られて教会の建設を引き受けてしまう事になった。金も材料も人手も無い状況に町の人々は否定的だったのだが、彼の孤軍奮闘する姿に町の人々も心動かされていく。(Cinema Scapeより)

 黒人のスミスは町の住人たちにも受け入れられているが、住人たちはメキシコ系であり、尼僧たちも東ドイツからの亡命者たちである。だからこそ、あからさまな差別は描かれていないし、差別と対決するような姿勢も当然出てこない。それが黒人としては初のアカデミー主演男優賞を受賞することにもつながっていたのではないだろうか? シドニー・ポワチエはこの4年後に「夜の大捜査線」や「招かれざる客」という黒人差別に立ち向かう映画に出演している。
★★★★