ピアノ・ナイトリィ / 矢野顕子(1995)

howdymoon2005-11-11



全15曲、ピアノによる弾き語り。うち13曲がカバーで占められている。彼女自身による
短い解説がついているが、大貫妙子「突然の贈りもの」の部分から引用。


大貫妙子の曲を歌うということは、彼女から彼女自身が一番気に入っている毛布を貸してもらうようなものなのだ。私にとって。よだれやにおいがついてしまうことがわかっていても貸してくれる。いつ歌ってもなつかしく、心があたたかくなる。


6年前に自分の方から離れていった恋人から突然に贈られた花束。大貫妙子は過ぎ去った想い出と再び現れた恋人への静かな愛情を歌にしている。彼女独特のひんやりとした声で決してジメジメとせずに、けれども温かい歌い方で歌っている。矢野はこの大貫妙子の名曲を一度自分の体内に吸収した後、彼女の匂いをつけて提示している。オリジナル以上の出来映え。その他にも素晴らしいのが、友部正人「愛について」。オリジナルを知らないのだが、彼女の歌声とピアノが錐のように心に差し込んでくるような歌。おもわず居住まいを正して正座をして聴かなくちゃいけないような気になってくる。そして続くのが小坂忠「機関車」なのだが、この曲も魂をぎゅっと絞られるかのごとく、心に踏み込んでくる。小坂忠絶唱も素晴らしいが、この矢野顕子バージョンは澄み切った、けれども力強い歌になっている。

他にも「恋は桃色(細野晴臣)」>、「DADDY'S BABY(JAMES TAYLOR)」などの曲も。どのカバーも、対象に対する深い愛情で包まれており、彼女のオリジナルであるかのように仕上げられている。それから、全曲、伴奏はピアノだけなのだが、このピアノが時には雄弁に、時には静寂に響いている。